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4.1 完璧な対策は、ない
最初に言っておきます。完璧な対策は、ありません。
完璧な対策とは、第3章の言葉で言えば、スリップの確率を0にする対策のことです。残念ながら、今のところ、その方法はありません。もしかしたらどこかにあるのかもしれませんが、あるとしても、全ての人が行える対策ではなく、できる人を選ぶ対策でしょう。もしあったら、とっくに世界中に知れ渡って、依存症はなくなっているはずです。ないのです。だから、やることは一つ。対策の重ねがけです。一つ一つは破られ得る対策を何枚も重ねて、ギャンブルにたどり着くまでのハードルを極限まで高くしていく。それが、私たちに取れる最適な行動なのです。
4.2 さまざまなギャンブル対策
対策には、大きく分けて2つの種類があります。物理的にギャンブルへのハードルを上げる方法と、心理的にハードルを上げる方法です。物理的な対策は、ギャンブルの実行を「できなくする」もの。心理的な対策は、ギャンブルの衝動を抑えるもの。メジャーなところでは、次のものが挙げられます。
物理的な対策(金銭面)
1 キャッシュレス化
現金を持ち歩かないことで、突発的な衝動を抑えます。
パチンコ店は現金の世界です。財布に現金がなければ、その日は打てません。
2 ATMの引き出し限度額を、0円に設定する
窓口でしか下ろせないお金は、「今すぐ打ちたい」という衝動のスピードに、
間に合いません。
3 つみたてNISA
余ったお金は、すぐに現金化できない形に変えておく。
即金化までに日数がかかる仕組みは、それ自体が防波堤になります。
4 貸付自粛制度
日本貸金業協会に申告すれば、借入を自主的に制限できます。
5 公営競技のネット投票口座を解約する
投票用の口座を閉じることで、ネット投票への資金の流れを断ちます。
ポケットの中の賭場は、先に閉めておくのです。
物理的な対策(金銭面以外)
6 自己申告プログラム
パチンコ店には、本人の申告で入店を制限してもらう仕組みがあります。
出入り禁止は、恥ではありません。卒業証書です。
7 ブロックアプリ
ギャンブルのサイトやアプリを、スマホごと塞ぎます。
拙作の「No More Bets」も、その一つです。
8 パチンコ店のない地域に引っ越す
極端に聞こえるかもしれませんが、物理的な対策の、いわば最大火力です。
心理的な対策
9 家族に、やめると宣言する
10 コミュニティとのつながりを大切にする
対策は、ここに書ききれないほどたくさんあります。しかし冒頭に書いたように、完璧な対策はない以上、すべての対策には抜け道が存在します。だから、対策を重ねがけして、ギャンブルまでのハードルを上げていく——その方法でしか、ギャンブルは意図してやめられないのです。
4.3 対策には、強弱がある
対策は、どれも同じ重さではありません。
簡単に取れる対策があります。カウントアプリ(拙作では「noCount」)を入れる。スマートフォンに入れて起動するだけですから、容易です。一方で、なかなか取れない対策があります。自分以外の誰かが関係する対策です。金銭管理をお願いする相手は、当然、自分以外の誰かになります。ハードルが上がります。
この「簡単に取れる対策」と「なかなか取れない対策」を分けている要因は、何でしょうか。自分の中だけで完結するかどうかです。
たとえば、ギャンブル資金に手を付けにくくする方法として、鍵付きの金庫(ロッキングコンテナ)で自分でお金を守る方法と、自分以外の誰かにお金を守ってもらう方法があります。どちらも「お金を守る」という意味では同じです。でも、どちらがよりお金を守れるかといえば、他人に管理してもらうほうに軍配が上がります。
「頼んでも、相手が簡単に返してくれたら意味がない」と思うかもしれません。それは、先に決めておけばいいのです。「私が何と言っても、この期間は返さないでほしい」と事情ごと頼む。管理のお礼に謝礼を渡す約束をしておく。こちらから管理をやめる場合は違約金を払う、と決めておく——方法は、いくらでもあります。それこそ、無限にあなたに合ったやり方があります。よく目にする「自分に合ったやり方」というのは、本来、こういった話なのです。
そして、人に打ち明けて頼むことには、仕組み以上の効果があります。自分の中に、意識の変化が生まれるのです。「この人を裏切りたくない」という気持ち——それが、あなたをさらにギャンブルから遠ざけます。
このように、得てして本当に効果があるのは、自分の中で完結しない対策のほうです。自分の中だけの対策は、簡単にできる反面、取りやめることも簡単にできてしまうからです。あなた以外の人間を関わらせ、協力者にすることで、自分の向き合い方まで変わっていきます。——とはいえ、なかなか打ち明ける勇気が出ないのも、分かります。
ここで大事なのは、取れない自分を責めることではありません。対策を「しない」のではなく「取れない」のだと、まず認識することです。その認識があれば、たとえスリップを繰り返しても、取れる対策のレベルは少しずつ上がっていきます。そして最終的には、盤石な対策が完成します。
4.4 自分以外の人が関わる対策には、期限を決める
他人が関わる対策は、期限を決めた上でお願いするのがいいでしょう。たとえば金銭管理をお願いする場合、一生管理をお願いするのは現実的ではありません。確かに、やめ始めの不安定な時期には、ギャンブルをやめる上で大きな効果があります。でも、考えてみてください。そのお願いは、いずれ確実に終わります。その終わりが自分の意図しない形で来るなら、そこに不確定な要素が生まれます。急に現れた自由なお金は、あなたの中に潜んでいた衝動を、強烈に呼び起こしかねないのです。だから、やめ方まで自分のコントロール下に置いて、あらかじめスムーズな終わらせ方を考えておきます。
つまり、あらかじめ決めて、頼むのです。「この時期まで、お願いします」と。期限があれば、頼まれる側も引き受けやすく、続けやすくなります。回復には段階があります。やめるのが不安定な時期と、安定してやめている時期。不安定な時期に最大火力の対策を張って、安定してきたら、決めた期限で見直していきます。
4.5 衝動が来てからでは遅い
ここまで対策の話をしてきましたが、共通する考え方が一つあります。衝動が来てからでは、遅いということです。
「衝動が来てから、どうやって耐えていますか?」という質問を、よく目にします。一つ、正直に言えることがあります。私は、ギャンブルの衝動が起きたら、耐えられる気がしません。
つまり、衝動が起きないようにするのです。衝動が起きてからでは、遅いのです。
対策とは、詰まるところ、ギャンブルの衝動を抑える行動と言えるのです。
4.6 自分のパターンを知る——お盆の例
対策の精度を上げる強力な方法が、自分のギャンブルのパターンを知ることです。実例を出します。
家族がお盆に里帰りする。自分は家に一人になる。すると、我慢できずにパチンコに行ってしまう。お盆は毎年ある。そして毎年、この期間にスリップしている——。
ここまで分かれば、「お盆は危険な期間だ」と学習できます。では、どうするか。一緒に帰ればいいのです。
ところが、ここに罠があります。「一緒に帰るかどうか」を、保留したくなるのです。保留の正体は、「ギャンブルできる可能性を残しておきたい」という深層心理です。
そこで、第3章の「意志の波」を使います。1週間前のあなたと、前日のあなたを、想像して比べてみてください。1週間前のあなたは、ギャンブルする気がそもそもあまりありません。つまり、「一緒に帰る」と言える状態です。でも前日のあなたは、「明日から一人になれる」と思い始めていて、もう言えなくなっています。衝動の水位が、意志で対抗できる水準を超えるからです。
答えは決まりました。1週間前に、家族に「一緒に帰る」と言っておくのです。「お義父さんにも、帰るって伝えておいて」と言えれば、なお良いでしょう。帰省の予定をキャンセルしてパチンコに行くことのハードルが、二段階上がります。
これが、パターンを知り、波が高いうちに手を打つ、ということです。
ここまでが、効く対策の話です。次の章では逆のもの——対策の顔をして、あなたをギャンブルに留めるものたちを並べます。